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トンボの卵の発生を調べる

このページの最終更新日は2005年5月3日です

 採卵の方法  卵期を調べる 卵の形や大きさを調べる 


トンボの卵を採卵して孵化するまでのようすと、発生を調べるとき道具や注意点などについて書いてあります.このページの卵の大きさの拡大率は同じです.


卵を入れておく容器

同じ日に産卵した卵を同じ場所においても,発生の速いもの,遅いものがあります.1卵を取り出してそれを継続観察すると発生の過程がよくわかります.(同じ容器に入れた卵でもわずかな環境の違いや個体差で,発生の速い,遅いがあるようです.)野外で採取した卵はフィルムケースなどに入れて持ち帰りますが,できるだけ早く,やや大きめの容器に移し,その後 ,さらに目的に応じた容器に移します.観察には実体顕微鏡または生物顕微鏡など,かなり拡大して見ることができる道具が必要です.

卵を1卵ずつ入れておく容器は,以前はフィルムケースの上部を切り取り,高さを1.5cmにしたものを使っていま したが,現在は下のよう自作の容器を使っています.この容器を作ってから,長期間の卵の観察は容易になりました.小さな水槽を作る時の接着剤に使ったり,ゴム長の穴を埋めたり,とにかく便利なシリコーン系充填材ですが,これを適当な大きさに切ったガラス板に細く押し出し,乾いてから上を平らに切ると出来上がりです.充填剤の厚さは2mm〜3mmが適当です.ただし厚さがあるので,普通の生物顕微鏡での40倍以上の対物レンズの使用は無理です.10倍までの対物レンズなら使用できます.しかし,この容器を使った観察や撮影には実体顕微鏡が適当です.観察する卵などを入れたのち,水をあふれるぐらい入れ,カバーガラスをかけ余分な水を吸い取ると傾けても動かないので観察しやすいものです.孵化に時間がかかっても大丈夫です.

何日も続けて観察するときにはこの容器が入る大きさのプラスチック容器に入れておきます.プラスチック容器には包装用のプチプチ?を適当な大きさに切って底に敷き水を少し入れておきます.それでも,長期間置いておく場合は時々,水が減っていないかを確認することが必要です.

ガラスの大きさ50mm×35mm.カバーグラスは24mm×32mmを使用しています.この容器は卵を長期間同じ向きから観察するときに便利です.カバーグラスを少しずらしておくと卵を動かさないように水を加えることができます.数卵同時に観察できます. ガラスの大きさ,カバーグラスの大きさはほ左と同じです.円形にすると水をやや多めに入れて上からカバーグラスを載せると気泡が入りません.タマゴクロバチ科などが寄生した浮かんでくる卵の観察に便利です. 卵を長期間観察するときは左の容器を下のようなプラスチック容器に入れておきます.数卵同時に入れておくときは卵の位置を示す図を容器の蓋に書いておくと便利です.

 

卵を取り巻くゼリー状の物質

トンボ科,エゾトンボ科,サナエトンボ科の一部の卵では卵の周囲に粘着力の強いゼリー状の物質があります.採卵後,持ち帰った卵が.一塊(ひとかたまり)になってしまったときは,中心部の卵が酸素不足などで発生しないことがありますので,針やピンセットで広げておきます.アカネ属の卵は大きめの容器に入れておくと,卵を取り巻くゼリー状の物質が広がると同時に卵がある間隔を保つようになりますが,小さな容器のまま置いておくと一塊になってしまうことがあります.この 卵を取り巻くゼリー状の物質は取り除いても,卵の発生には影響ありませんので、内部がよく見えない卵については、取り除いて観察してもよいと思います.

産卵後10日目のマイコアカネの卵 卵を取り巻くゼリー状の物質は薄いので,観察にあまり影響はありません.またゼリー状の物質で卵は容器に固定するので,同じ方向から観察を続けることができます. 産卵後67日目のハネビロエゾトンボの卵 卵を取り巻くゼリー状の物質は濃く,そのため内部がやや見えにくくなります. 産卵後87日目のナツアカネ卵 卵を取り巻くゼリー状の物質は産卵時には少なく,孵化前に薄く取り巻きます.

トラフトンボの卵

トラフトンボの卵はゼリー状の物質の卵紐の中に入っています.

卵紐からとりだした卵です.卵の周りには別のうすい ゼリー状の物質がついています うすいゼリー状の物質も取り去ったもので,内部のようすがはっきりわかります.

オニヤンマの卵は,卵を取り巻くゼリー状の物質に砂粒がくっつき,内部のようすがぜんぜん見えませんが, ゼリー状の物質を取り去ると内部のようすがわかります.卵を取り巻くゼリー状の物質を取り除いても,発生には影響ありませんが,卵の前後がわかりにくくなります.

発生中の変化

発生の中で変化を確認できる時期が何回かあります.下の写真はクロイトトンボの卵ですが,産卵 直後の卵は孵化直前の卵に比べるとかなり小さく見えます.発生を始めた卵は ,卵の表面からひび割れのようになり,卵の中がいくつかの塊に分かれたように見えてきます.これが見られると発生していることがはっきり確認できます.次に胚の形がはっきりしてくる時期 があり,この頃までに卵は大きくなります.次に胚が反転する時期,最後にもっとも動きの速い孵化の時期です.

産卵後2日目  産卵後3日目 卵の表面が石垣状に見える時期 産卵後5日目 胚がはっきりしてくる時期 産卵後7日目 胚反転の時期 産卵後11日目 孵化

 

胚の頭部になる部分は最初は卵の後方にありますが,胚の反転を行い頭部は卵の前端の方を向きます.胚が反転することによって,孵化する時, 前幼虫が産卵植物から出られるようになります.胚反転の動きは速く,うっかりすると見逃してしまいます.

 

孵化する直前を知る方法

卵が孵化して前幼虫,1齢幼虫となる変化は動きが速く,興味深いもので何度見ても見飽きないものです.しかし,孵化するのを待ちつづけるのも大変なものです.これまでに観察したことから,孵化の直前を知る方法について書いておきます.

孵化を観察しやすい種は孵化直前がはっきりわかる均翅亜目と,卵期が短く,しかも一斉に孵化する種です.このような種は簡単に孵化を見ることができます.反対になかなか見ることができない種は,卵期が長く,しかも孵化のばらつきが大きい種です .採卵が難しい種もあります.

イトトンボ科,モノサシトンボ科,アオイトトンボ科,カワトンボ科などの均翅亜目(きんしあもく)のトンボでは,どれも孵化直前に卵の前端部が伸びだします.これらのトンボは,植物に産卵管で産卵しますが,卵は植物表面からほんの少し内側にあり,外からは見えないのが普通です.孵化前になりこの前端部が伸びだすことにより,卵の先端が植物表面に達するか,またはわずかに外に出ます,それから,卵の中の前幼虫が伸びだし,卵の外に出ますので容易に外に出られます.

キイトトンボの孵化直前から孵化まで  多くの均翅亜目のトンボでは,孵化の数時間前から前端が伸び出してきますので,前端が伸びて隙間のように見える部分がある卵はもうすぐ孵化する卵です.  前端がのびだす頃には内部の動き(特に複眼の間あたりの周期的な動きと、背中の部分にあたる卵黄の前後への動き)が活発になります.これはすべての均翅亜目のトンボに共通しています.前端が伸びきった後,前幼虫が伸びだして卵からでて きます.

孵化の1時間02分45秒前 孵化の9分53秒前  孵化の1分21秒前 孵化6秒後

トンボ科

トンボ科は,孵化直前になると卵全体がやや黒っぽくなり内部が見えにくくなります.内部がはっきり見えているのはまだしばらくは孵化しない卵です.卵の内部で、胚(前幼虫)が動いているだけでは孵化直前ではなく,孵化直前は他より黒っぽく,内部の複眼の間あたりの連続的な動きと,卵黄部分の大きな動きがあればもうすぐ孵化する卵です.

サナエトンボ科

多くのサナエトンボ科の卵には表面に模様?があり,内部がみえにくく,内部の動きがはっきりわからないものが多いようです.アオサナエ のように内部がよく見える卵では,孵化する何日も前からよく動いているのが見えますが,孵化する時はやはり複眼の間あたりの連続的な動きと、卵黄部分の大きな速い動きがあります.これはほとんどの卵に共通です.  孵化する直前には卵歯で卵を切って出てきますが,複眼も動きます.サナエトンボ科の卵の殻は厚いので卵歯で切るときの動きは比較的長く数分続くこともあります.

ヤンマ科  ヤンマ科も孵化前には内部の動きが見られます.赤の矢印で示した部分は数日前から動いていますが,孵化前にその動きは大きくなります.孵化直前には黄色の矢印で示した複眼の間の部分に連続的な動きが見られます.

白の矢印は卵歯です.孵化するときはこの卵歯で卵を切って出てきます.このとき複眼が同時に動きますが,サナエトンボ科ほど長くはなく,数回の動きで卵が切れることが多いようです.写真はギンヤンマの孵化直前の卵です.